ビッグバンが残した光の『さざ波』 ~今の宇宙のもとになった『種』のお話~
はじめに
私たちの住む宇宙には、きらめく星々や、たくさんの星が集まった銀河が満ち溢れています。まるで、壮大な宇宙の庭園のようにも見えますね。
これらの星や銀河は、一体どのようにして、この宇宙に生まれたのでしょうか?
ビッグバン理論は、宇宙の始まりだけでなく、こうした宇宙の姿がどのようにして形作られたのかについても、大切な手がかりを与えてくれます。
今回は、ビッグバンが私たちの宇宙に残した、ある「光」のお話と、それがどうして今の宇宙の豊かな姿につながっているのかを、分かりやすくお話ししたいと思います。
宇宙に満ちる『残り火』のような光
ビッグバン理論では、宇宙はとても昔、非常に小さく、そして想像もできないほど熱い状態から始まり、それからずっと広がり続けていると考えられています。宇宙が広がるにつれて、その温度もだんだんと下がっていきました。
宇宙が生まれてからおよそ38万年ほど経った頃、宇宙はちょうど良い温度になり、それまで光と物質がごちゃまぜになっていた状態から、光が自由に空間を飛び回れるようになりました。この時の光は、今でも宇宙のあらゆる方向からやってきています。
この光は、「宇宙マイクロ波背景放射(うちゅうマイクロははいけいほうしゃ)」と呼ばれており、例えるなら、ビッグバンという宇宙の始まりの大イベントが残した「残り火」のようなものと言えます。宇宙のどこを見ても、この光がわずかに観測されているのです。
『残り火』に見つかった、わずかな『さざ波』
科学者たちが、この宇宙マイクロ波背景放射という「残り火」の光を詳しく調べてみたところ、非常に興味深いことが分かりました。
この光は、宇宙のどこを見てもほとんど同じ強さ、同じ温度に見えます。まるで、宇宙全体が均一なスープのようだった証拠です。
ところが、もっともっと精密に見てみると、ほんのわずかですが、温度に「ムラ」があることが分かったのです。高いところもあれば、低いところもある、まるで水面に立つ「さざ波」のような、ごくわずかな違いです。
この「さざ波」のような温度のムラは、当時の宇宙で、物質がほんのわずかに集まっている場所と、そうでない場所があったことを示していました。温度が少し高いところは物質が少しだけ多く、低いところは物質が少しだけ少ない、といった具合です。
『さざ波』が、今の宇宙の『種』になった
この、宇宙の始まりの「残り火」に見つかったわずかな「さざ波」、つまり物質のわずかな密度のムラこそが、現在の宇宙の姿をつくり出すための、とても大切な「種」だったと考えられています。
想像してみてください。ほんのわずかでも物質が多く集まっている場所があれば、そこには周りからさらに物質を引き寄せる力が働きます。これは「重力(じゅうりょく)」という力です。物質が集まれば集まるほど、重力は強くなりますから、もっとたくさんの物質を引き寄せることができます。
こうして、宇宙の始まりの光に残されていたわずかな「さざ波」のある場所では、長い時間をかけて少しずつ、少しずつ物質が集まっていきました。まるで、小さな砂粒が核となって、だんだんと大きな雪の玉に成長していくようなものです。
そして、何億年、何十億年という長い宇宙の歴史の中で、物質が集まってできた大きな塊が、やがて星になり、星が集まって銀河が生まれたのです。
私たちが夜空に見上げる美しい星や銀河は、ビッグバンが残した光の「さざ波」から生まれた、と言えるかもしれません。
まとめ
ビッグバン理論は、宇宙がどのように始まったのかだけでなく、宇宙の姿がなぜ今のように星や銀河に満ちているのかについても教えてくれます。
宇宙の始まりの頃に放たれた「残り火」のような光には、ほんのわずかな「さざ波」のようなムラがありました。この目には見えないわずかなムラが、長い宇宙の歴史の中で物質を引き寄せ、集める「種」となり、やがて星や銀河という宇宙の大きな構造へと成長していったのです。
ビッグバンが残した光の「さざ波」を調べることは、まるで宇宙の昔の姿を写した写真を見るようなものです。その写真には、今の宇宙の豊かな姿の「種」がしっかりと写し出されていたのですね。
このように、ビッグバン理論は、目に見える宇宙の姿からも、その始まりの手がかりを見つけ出すことができる、とても興味深い考え方なのです。