宇宙の始まりの光「残り火」はこうして見つかった ~ビッグバン理論の確かな証拠~
宇宙の始まりの「残り火」とは?
宇宙がどのように始まったのかを説明するビッグバン理論には、いくつか大切な「証拠」があります。その中でも、宇宙の始まりが本当にビッグバンであったことを力強く裏付ける証拠の一つに、「宇宙の始まりの光」と呼ばれるものがあります。
これは専門的には「宇宙マイクロ波背景放射(うちゅうマイクロははいけいほうしゃ)」と呼ばれますが、ビッグバンの「残り火」や「名残の光」と例えられることもあります。
宇宙が生まれたばかりの頃は、とても熱く、光が自由に飛び回れないような、濃い霧のような状態でした。しかし、宇宙が膨張して冷えていくにつれて、ある時を境に光が自由にまっすぐ進めるようになりました。この時に宇宙に放たれた光が、時間を経て今、宇宙のあらゆる方向から私たちに届いていると考えられています。
この光こそが、「宇宙の始まりの光」、つまりビッグバンの「残り火」なのです。
予測されていた「残り火」
実は、科学者たちはビッグバン理論が進むにつれて、このような「残り火」が宇宙に残っているはずだと予測していました。もし宇宙が非常に高温で始まったのなら、その時の熱が光として宇宙全体に残っているはずだと考えたのです。
例えるなら、熱く焼けた鉄が冷めていく時に熱を放出するようなものです。宇宙もビッグバン直後の熱を、光(電磁波)として放出し、それが今も宇宙空間を飛び交っているはずだ、と予測したのです。
しかし、その光は非常に長い時間をかけて宇宙を旅してきたため、エネルギーを失い、今では「マイクロ波」と呼ばれる、目には見えない、弱い電波のような光になっていると考えられていました。
偶然見つかった宇宙からの信号
そして1960年代のこと、アメリカで新しいアンテナを使って、宇宙からの電波信号を研究していた二人の科学者がいました。アーノ・ペンジアスさんとロバート・ウィルソンさんです。
彼らは、自分たちのアンテナで受信する電波を、非常に精密に測定しようとしていました。ところが、どの方向に向けても、どんなにアンテナを掃除したり調整したりしても、どうしても消えない「ノイズ」のような電波があることに気づきました。
この「ノイズ」は、地球上のどこかから来ている電波でも、アンテナの故障でも、鳥のフンが原因でもありませんでした。宇宙のあらゆる方向から、同じ強さでやってくる、不思議な信号だったのです。
これこそがビッグバンの「残り火」だった!
この正体不明の「ノイズ」について調べていくうちに、ペンジアスさんとウィルソンさんは、別のグループの科学者たちが、ビッグバン理論から予測される「宇宙の残り火」を探していることを知ります。
そして、彼らが検出した宇宙からの信号こそが、まさにその「宇宙の残り火」、ビッグバン理論が予測していた「宇宙マイクロ波背景放射」だったということが分かったのです。
これは、まるで宝探しをしていた人たちの隣で、偶然、宝物が見つかったかのような出来事でした。
なぜこれがビッグバン理論の確かな証拠なのか?
ペンジアスさんとウィルソンさんが偶然見つけた宇宙からの電波が、ビッグバン理論が予測していた「残り火」と一致したことは、ビッグバン理論が正しいことを示す、非常に強力な証拠となりました。
なぜなら、もしビッグバンが起きていなかったとしたら、宇宙にこのような「残り火」のような光が、宇宙のあらゆる方向から同じように届いているはずがないからです。
この発見によって、ビッグバン理論は単なる仮説ではなく、観測によって裏付けられた、信頼できる宇宙の始まりの物語として、広く受け入れられる大きなきっかけとなったのです。
私たちが今見ている星空の彼方には、138億年という長い時間を旅してきた、宇宙の始まりを語る「残り火」の光が、静かに輝き続けているのです。