ゼロからわかるビッグバン

ビッグバン理論で全てが分かったの? ~宇宙に残されたいくつかの疑問~

Tags: ビッグバン, 宇宙論, 宇宙の謎, 未解明, 宇宙の始まり

はじめに:ビッグバン理論の素晴らしい成果と、その先

「ゼロからわかるビッグバン」をお読みいただき、ありがとうございます。これまでの記事で、ビッグバン理論が私たちの宇宙の始まりを説明する上で、とても有力な考え方であることをご紹介してきました。

宇宙が膨張していること、宇宙の「残り火」とも言われる光が見つかったこと、私たちの体や周りのものを作る軽い元素がどのように生まれたのかなど、ビッグバン理論は、宇宙の歴史の多くの謎を解き明かしてくれました。

ですが、科学の世界では、一つの謎が解けると、また新しい謎が見つかるものです。ビッグバン理論も、宇宙の全てを完全に説明できているわけではありません。実は、まだたくさんの「なぜ?」が宇宙には残されているのです。

今回は、ビッグバン理論で明らかになったことの素晴らしさを認めつつも、まだ私たちが知らない、宇宙に残されたいくつかの疑問について、難しい話は抜きにして、分かりやすくお話ししたいと思います。

宇宙はなぜ、こんなに均一で平坦なのでしょうか?

ビッグバン理論の大きな証拠の一つに、「宇宙マイクロ波背景放射」という、宇宙の「残り火」のような光のお話がありましたね。この光は、宇宙が生まれて間もない頃の様子を映し出しています。

この光を詳しく調べてみると、宇宙は非常に広い範囲にわたって、ほとんど同じ温度であることが分かっています。まるで、日本のどこでも、北海道でも沖縄でも、同じ気温だった、というくらい、驚くほど均一なのです。

ビッグバン理論では、宇宙はとても小さく熱い状態から急激に膨張したと考えますが、それでも、宇宙の遠く離れた場所同士が、なぜこれほどまでに同じような状態になれたのかは、すぐには説明できません。光の速さよりも速く情報をやり取りすることはできないからです。

また、私たちの宇宙は、まっすぐな空間(「平坦」な宇宙と呼びます)に近いことも分かっています。これも、ビッグバン理論だけでは、なぜそうなったのかを説明するのが難しい点のひとつです。

この「均一性」や「平坦性」の謎を説明するために、「インフレーション」という、ビッグバンよりさらに前の、宇宙がものすごい勢いで膨張した時代があったのではないか、という考え方も出てきています。しかし、これもまだ研究が進められている段階のアイデアです。

宇宙のほとんどは「見えない何か」でできている?

私たちの周りにあるもの、私たち自身、星、銀河、これらはすべて、原子という小さな粒からできています。原子は、陽子や中性子、電子といったもので構成されていますね。

ところが、宇宙全体のエネルギーや物質を調べてみると、この目に見える普通の物質は、宇宙全体のほんの数パーセントしか占めていないらしい、ということが分かってきたのです。

では、残りの宇宙は一体何でできているのでしょうか? 観測結果から、宇宙の約27%は「暗黒物質(ダークマター)」と呼ばれる、光を出さず、普通の物質とはほとんど反応しない、見えない物質でできていると考えられています。そして、さらに驚くことに、宇宙の約68%は「暗黒エネルギー(ダークエネルギー)」と呼ばれる、これも正体不明のエネルギーで満たされており、これが宇宙の膨張を加速させているらしい、という証拠が見つかっています。

宇宙のほとんどを占める「暗黒物質」や「暗黒エネルギー」が一体何なのか、どのように振る舞うのか、これはビッグバン理論の枠を超えた、現代宇宙論の大きな謎の一つです。

ビッグバンより「前」はどうだったの?

ビッグバン理論は、宇宙が約138億年前に、小さく熱い一点から始まった、と考えます。では、その「一点」よりも前、時間ゼロよりも前は、一体どうなっていたのでしょうか?

実は、ビッグバン理論は、宇宙の始まりのごく初期の状態を説明することはできても、その「始まりそのもの」や、それより前の出来事については、直接答えることができません。まるで、赤ちゃんの生まれた瞬間からの成長を説明できても、お腹の中にいた時のことを説明できないようなものです。(少し違うかもしれませんが、イメージとして考えてみてください。)

この疑問に答えるためには、ビッグバン理論の元になっている物理学とは、また違った、新しい物理学の考え方が必要になるのかもしれません。これは、科学者たちが今、最も活発に研究しているテーマの一つです。

まとめ:宇宙の探求は続く

ビッグバン理論は、宇宙の始まりから現在までの壮大な物語を私たちに教えてくれました。これは人類がたどり着いた、素晴らしい成果です。

しかし、ご紹介したように、宇宙にはまだ、なぜ?どうして?という謎がたくさん残されています。宇宙はなぜこんなに均一なの?見えない物質やエネルギーの正体は?ビッグバンより前は?

これらの謎は、ビッグバン理論が間違っているというわけではありません。むしろ、ビッグバン理論という強力な土台があるからこそ、私たちは次のステップに進み、これらのより深い謎に挑戦できるのです。

宇宙の始まりの物語は、ビッグバン理論で終わりではありません。科学者たちは、より大きな望遠鏡や新しい観測技術を使い、宇宙の「残り火」をさらに詳しく調べたり、「暗黒物質」や「暗黒エネルギー」の正体を探ったりと、宇宙の全貌を理解するために、今も探求を続けています。

私たちが見上げる夜空には、解き明かされていない謎がたくさん隠されているのです。その謎を知ることは、私たちが宇宙の中でどのような存在なのかを知るための、大切な一歩と言えるでしょう。