なぜ「ビッグバン理論」が宇宙の始まりの常識になったの? ~別の考え方との違い~
宇宙の始まりには、どんな考えがあったのでしょう?
私たちは今、「宇宙はビッグバンで始まった」という考え方をよく耳にします。でも、実は科学の世界では、宇宙の始まりや未来について、昔からさまざまな考え方が提案されてきました。
ビッグバン理論が登場し、多くの人に受け入れられるようになる前にも、宇宙の姿を説明しようとする、いくつかの有力な考え方があったのです。
昔、有力だった「定常宇宙論」とは?
ビッグバン理論と並んで、かつて有力な考え方の一つに「定常宇宙論(ていじょううちゅうろん)」というものがありました。
これは、「宇宙は過去から未来まで、見かけ上はずっと変わらない姿を保っている」と考える理論です。
宇宙は広がり続けているらしい、ということは、ビッグバン理論が広まる前から分かってきていました。では、広がり続けているのに、どうやって宇宙の姿を一定に保つのでしょう? 定常宇宙論では、宇宙が広がって空間が薄まる分だけ、新しい物質(ちいさな粒)が絶えず自然に生まれてくる、と考えたのです。
たとえるなら、定常宇宙論が描く宇宙は、水槽から常に水が流れ出て広がり続けるけれど、蛇口からいつも同じ量の新しい水が注ぎ続けられるため、水槽全体の水の量や深さ(宇宙の密度)がずっと一定に保たれているようなイメージです。
ビッグバン理論が描く宇宙との違い
一方、私たちが学んでいるビッグバン理論は、これとは全く違う宇宙の姿を描きます。
ビッグバン理論では、「宇宙は今からおよそ138億年前に、非常に小さく、非常に熱い状態から始まり、それが大きく膨張して今の姿になった」と考えます。
これは、水槽の例で言えば、最初にごく少量の水しかなかった水槽に、時間とともにどんどん水が注がれていき、全体が大きくなりながら水面(宇宙の密度)が薄まっていくようなイメージです。時間が経つにつれて、宇宙全体の様子は変化していく、と考えます。
定常宇宙論は「変わらない宇宙」、ビッグバン理論は「変化する宇宙」を描いている、と言うことができます。
なぜビッグバン理論が広く受け入れられたのでしょう?
では、なぜ「定常宇宙論」のような考え方ではなく、「ビッグバン理論」が、宇宙の始まりに関する最も有力な考え方として、多くの科学者に受け入れられるようになったのでしょうか?
それは、「観測」という宇宙からの「手掛かり」が見つかったからです。
宇宙の研究では、実際に宇宙を望遠鏡などで「観測」して、何が見えるのか、どのような現象が起きているのかを調べることがとても大切です。そして、提案された理論が、その「観測」の結果と合っているかどうかが問われます。
科学者たちは宇宙を詳しく観測する中で、次のような重要な発見をしました。
- 宇宙は実際に膨張しているらしい:遠くにある銀河ほど、私たちから速く遠ざかっていることが分かりました。これは、宇宙全体が広がり続けていることの証拠と考えられました。これは「変わらない宇宙」を考える定常宇宙論よりも、「変化する宇宙」を考えるビッグバン理論に合う証拠でした。
- 宇宙全体に「残り火」のような光がある:「宇宙マイクロ波背景放射(うちゅうマイクロははいけいほうしゃ)」と呼ばれる、宇宙のあらゆる方向から届く弱い光が見つかりました。これは、宇宙が昔は非常に熱い状態だったという、ビッグバン理論の予測とぴったり一致する光だったのです。まるで、大きな火事の後、しばらくするとあたり全体がじんわり温かいように、宇宙の始まりの熱が「残り火」として今も残っている、と考えられました。
観測がビッグバン理論を後押しした
これらの観測結果は、宇宙が時間とともに変化し、昔は熱かったというビッグバン理論の考え方を強く支持しました。一方、定常宇宙論は、これらの観測結果をうまく説明することができませんでした。
そのため、多くの科学者は、宇宙の実際の姿をよりよく説明できるのはビッグバン理論である、と考えるようになったのです。
まとめ
ビッグバン理論は、宇宙の始まりに関する数ある考え方の中から、観測という確かな「手掛かり」によって選ばれた理論と言えるでしょう。
宇宙が膨張していること、そして宇宙の「残り火」が見つかったこと。これらの証拠が、宇宙は定常ではなく、昔は小さく熱い時代があったというビッグバン理論の考え方を後押しし、宇宙の始まりを探る最も有力な方法として広く受け入れられるようになったのです。
このように、科学では、新しい「手掛かり」が見つかることで、私たちの考え方が変わっていくことがあります。ビッグバン理論も、まさに宇宙からの「手掛かり」によって、その確からしさが示されていった理論なのです。